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猫の幼齢不妊去勢
- Early Age Spay and Neuter in the Cat
- Susan Little DVM, Diplomate ABVP(Feline Practice)
- Copyright 2000, Susan Little DVM
序文
近年早期中性化に関する関心が高まっていますが、これは議論されているだけでなく実際北米では25年間に渡り実践されています。
早期中性化とは、従来5-7月齢の仔猫にしている不妊去勢手術を、8-16週齢の仔猫に施すことを言い、最近ではシェルターで保護されている動物を、中性化してから譲渡するというシステムが注目を集めています。
また早期中性化は、シェルターから譲渡された動物がさらに不幸な動物を増やさないためのより確実な手段として提唱され、犬猫の増殖を防ぐ最も一般的で効果的な手段として認識されています。
補助金制度等を導入しているにもかかわらず、シェルターから譲渡された犬猫の多くは、不妊去勢手術を受ける前に一度出産をしているという結果が報告されています。譲渡後の飼い主へのチェック、手術の割引、補助金の先払い、譲渡時の誓約等が実施されていますが、譲渡後の飼い主による不妊去勢手術の実施率は50%以下にとどまっており、結果望まれない仔猫・仔犬達の約1/3がまたシェルターに持ち込まれるのです。
アメリカ獣医学会は、1993年に下院にて下記の決議が可決されて以来、幼齢不妊去勢のコンセプトを支持しています。
「アメリカ獣医師会は、幼齢(8-16週齢)の犬猫に対する卵巣子宮摘出術/性腺摘出術を、これらの動物の増殖を抑制する手段として支持する。1993年よりアメリカ動物病院協会及びThe American College of Theriogenologists(動物繁殖学)は、幼齢不妊去勢手術を支持する。」
科学的調査1
伴侶動物に施す、最も古く一般的な手術が、実は最も研究されていないという矛盾があります。
犬や猫に不妊去勢手術を施す、最適な年齢を示す科学的データはほとんど存在していません。
酪農動物や実験動物に関しては、性成熟前の施術が一般的とされています。伴侶動物について5-7月齢に施術する一番の理由は、獣医師にとってこの年齢が施術しやすく結果も良好であるということです。また幼齢の生体に不慣れであることと、麻酔薬に関する懸念から、幼齢の生体に対する手術及び麻酔の安全性が疑問視されています。
他には猫の発育不全、肥満、行動の変化、尿路疾患等の成長後の悪影響の可能性が指摘されることもあります。
早期中性化により、雄猫が尿道閉塞や尿路疾患にかかりやすくなるという誤解は、すでに古く間違った研究結果となっています(Engle, 1997)。
過去10年以上に渡り、科学的証拠や臨床実験ではこのような問題は報告されておらず、雄猫の尿路疾患は去勢は無関係であり、食習慣を含むあらゆる要素が関係することを示す、よい科学的証拠もあります。
肥満は食事、運動、血統、年齢、性別等のあらゆる要素が影響しています。
中性化をしていない猫、早期中性化手術を受けた猫、従来の年齢で中性化手術を受けた猫の必要カロリーに関する研究(Root, Johnstonm Olso, 1996)では、中性化された猫の方が必要カロリーが少ないため、食事の量を調節しないと肥満につながることが指摘されています。7週齢及び7月齢で中性化された雄猫は、中性化されていない雄猫よりも必要カロリーが28%少なくなります。7週齢及び7月齢で中性化された雌猫は、中性化されていない雌猫よりも必要カロリーが33%少なくなります。雄猫の筋肉の成長は雄性ホルモンによるものであり、よって雄猫の筋肉の減少は、去勢とは関連性がないということになります。
科学的調査2
フロリダ大学(Stubbs et al, 1996)では、猫を3グループに分け骨格の成長等について調査しました。
猫は、7週齢で中性化された猫、7月齢で中性化された猫、中性化されていない猫、の3グループに分類されました。
通常、橈骨遠位の骨端軟骨は性的成熟後である14から20月齢で閉鎖します。骨端軟骨組織の形成には性腺ステロイドが必要と言われていますが、この研究では、7週齢で中性化された猫と7月齢で中性化された猫の両者に、橈骨骨端軟骨の成長版閉鎖の遅れが見られました。
しかし、この結果は橈骨/尺骨の長さに影響するものではないため、これらの3グループにはほとんど差異が見られなかったことになります。
ミネソタ大学 (Root et al, 1997) で実施された早期中性化された猫の橈骨の閉鎖に関する別の研究では、中性化されていない猫より、7週齢及び7月齢で中性化された猫の方が長いという結果が出ています。このように、7月齢以前に中性化手術を受けた場合、骨端軟骨の閉鎖の遅れが見られる結果となりました。早期中性化は、発育不良を引き起こすというよりは、正常又はそれ以上の成長を促していると言えるかもしれません。骨端軟骨閉鎖の遅れにより、骨端軟骨骨折のリスクが高くなるとの仮定も可能ですが、今のところこの点は問題視されていません。
さらにこの研究では、尿道内圧曲線の測定結果、早期中性化された猫の尿道機能に特に悪影響は見られませんでした。
また尿道の直径は3グループ間で特に差異は認められず、中性化された猫の露出されるペニスの長さに異常は見られませんでした。
両グループの雄・雌猫の外性器は、中性化されていない猫に比べ未成熟でした。ミネソタ大学で行われた別の早期中性化された猫についての研究 (Root, Johnston, Johnston, Olson, 1996) でも、3グループ間で尿路(前立腺側及びペニス側の両方)の直径に差異がないことが確認されています。また、コントロール群のすべての猫は22月齢でのペニスの完全な露出が可能であったことも確認されました。しかし7月齢で去勢された猫では、ペニスの完全露出が可能だったのは60%のみで、7週齢で去勢された猫においてはゼロでした。包皮は雄性ホルモンに依存する皮膜で、出生時の包皮粘膜や陰茎粘膜に関係があります。長期間におけるペニスの露出不完全については未確認です。
フロリダ大学の研究では、行動の特徴については、中性化された両グループ間での差異は見られませんでした。
しかし、中性化されていないコントロール群は、中性化されている猫よりも人間に慣れず、他の種に対してより攻撃的でした。中性化された両グループの雄雌とも、行動が不活発になることはありませんでした。中性化された両グループの体重、体脂肪はほぼ同じで、中性化されていない猫より高い数値を示しました。
Howe et al (2000) は、シェルターで性腺摘出手術を受けた263頭の猫を、37ヶ月間追跡調査を行いました。
猫は手術を受けた時点の年齢で24週齢以前のグループと24週齢以降の2グループに分けられ、里親との電話インタビューと、病気や問題行動などで獣医にかかっている場合はその記録について調査されました。37ヶ月間の追跡の結果、感染性疾患、問題行動、その他疾患の発生状況に関して両グループに特に差異は認められず、手術を受けた年齢は、譲渡後の放棄率にも影響はありませんでした。
現在では動物病院よりもシェルターや愛護団体において、幼齢不妊去勢が多く実践されています。
一般開業医は一般のペットオーナーよりも、ブリーダーのリクエストで幼齢不妊去勢を実施しているようです。すでに多くのブリーダーが、手術済みの仔猫達のみをペット用に販売するようになってきており、最近の猫のブリーダーへのアンケートでは、70%のブリーダーが幼齢去勢不妊手術はブリーダーにとって重要であると回答しています。(Little S, 未公開データ, 2000) 別の利点は、他の理由による待機手術(例:ヘルニアの治療)を要する仔猫は、同時に幼齢で去勢不妊が可能であるという点です。
幼齢の生体に対する安全かつ効果的な麻酔と手術のためのガイドライン
- 手術前に完全な健康診断をしておくこと;数日前までにワクチン、寄生虫駆除を行うこと;何らかの異常(例:停留睾丸等)が認められた場合手術を延期すること
- 薬品の投与量を算出するため、正確に各猫を計量(100g単位で)すること
- 低血糖症を防ぐため、手術前の絶食は3-4時間前からのみにすること;麻酔覚醒後1時間以内に少量の餌を与えること
- 手術前は猫の興奮とストレスと軽減するため、兄弟達と暖かく静かな場所で安静にしておくこと;猫への接触は最小限にとどめること;緊張とストレスを最小限に抑えるため、IVではなくIM注射を使用すること
- 回復が遅い仔猫や回復後食事を取らない仔猫には、50%グルコースを経口投与すること
- 前準備・手術時の低体温症を防ぐため、低温度の場所から隔離すること(例:温水マット);前準備は温度が保たれるよう注意すること;剃毛を最小限にすること;前準備に使用するアルコールを最小限にすること;手術の終りに直腸温を確認すること;術後暖かい毛布、お湯の入ったボトル、ヒートランプなどを使用すること(しかし体温異常を防ぐため念入りに監視すること)
参考文献
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